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同僚にもらった料理レシピ。
牛スジの煮込み。
既に3時間煮込んだスジ。
鍋の中では大量の脂が浮いている。
一度、水を入れ替えておかねばならない。
レシピを見ながら作業を進めていく。
ある考えが頭を過ぎる。
せっかくだから、この液体をスープに・・・
少し手を加えれば、
簡単なラーメンくらいは作れるのではないか。
手元に生麺がないため、
インスタント麺から麺だけを取り出し茹でる。
その間に、スープを作成しようという作戦に取り掛かった。
脂の浮いた濃厚な液体を濾し、
出汁や醤油でさっと味をつける。
簡単なことしか出来ないが、
その調整がなかなか難しい。
自分が食べるものであり、
ある程度、納得がいくところまでやっておきたい心境だ。
完成。
あとは、茹であがった麺を入れればよい。
腹の虫は今か今かと出来上がりを待っている。
鍋を手に取る。
そこで泳ぐ麺を確認する。
確認したら首がうなだれる。
首がうなだれたら後悔する。
作り始めて数分。
思いの外、スープ作りに手間取ったため、
麺は無残な格好をさらしていた。
膨れ上がった姿が、あまりにも悲しい。
麺と涙を同時に啜りながら、
オレの昼食はその幕を閉じた。
右か。
はたまた左か。
特に理由などはなかったが、
その時のオレは左を選んでいた。
もし、何かの考えで右を選んでいたら・・・
この寒気は冷房だけによるものではないだろう。
そんなことを思いながら、
オレの目は視界の隅から消えていく
一人の中年の男を確実に捉えている。
突然の出来事。
ビルの一室。
カフェ。
音楽。
彼もただ、
オレと同様にステージから流れる
ピアニストの演奏を聴いていたに過ぎなかった。
「あっ」という声が聞こえてくるまでは。
「あっ」という声を発してしまうまでは。
オレの視界からその男は消えた。
何も出来ずに後方に倒れていく様は
あまりに力無く、
まるで、生命線を断たれたマリオネットのように、
悲劇的な結末を迎えなければならなかった。
心配する周囲の目は、
どこか不安と安心が入り混じっていて、
男は寄ってきた関係者とともに奥へといなくなる。
溜息を一つ。
胸をゆっくり撫で下ろす。
心の中でポツリと呟く・・・
自分でなくてよかった。
借主がいなくなった土地には、
無残に壊れたパイプ椅子が横たわっている。
演奏の邪魔にならぬよう、
スタッフが慌てて引き払っていくのが見える。
男の容姿からすれば、
確実に不良品だったと言えるだろう。
不運だった。
この一言に尽きるのではないか。
もし、
あの時、オレが右の椅子を選んでいたとしたら・・・
場合によっては、
この文章もベッド上からだったかもしれない。
その神様のアクション一つで、
天気が左右されるなんてことがあるとして、
この出掛ける直前に降り注ぐ、
『バケツをひっくり返したような物凄い雨』は、
神様が実はおっちょこちょいだという、
列記とした証明にならないだろうか。
手元に傘はないというのに…
天気予報は雨。
日夜勤翌日の貴重な休日。
出来ることなら
雨天中止→一日休養にしたい。
が、
思いの外曇天。
予期せぬ曇天。
数時間前、
オレの全身を隈なく濡らした雨は…
すっかり味方だと思い込んでいた空の神は…
彼らはオレに微笑んでくれない。
結論順延。
しばし、職場に滞在しなければならない。
降るのは、オレの涙雨ばかりだ。
右、左、右、左、
まるで、遮断機のランプのように
交互に合図は発信される。
その音が鳴る度に
オレの右腕は力なく、
ただ、確実に部屋に充満する
重苦しい雰囲気を断ち切ろうとしていた。
眠い。
一つを止めれば、また一つ。
布団の横に並べてある
ボタンを押しただけの2つの時計は、
一定の時間をおいたのち、
再び、部屋一帯にその音色を響かせる。
オレの気力の限界か。
タイマー設定の限界か。
アクション不足の格闘は、
今日も長期戦にもつれていった。