７月１日

一枚の紙切れがある。

【7月1日159円】

その事実に、
時の流れを感じざるを得ない。
もう随分と昔の出来事のような気もするが、

ほんの1年前、
あの時、確かにガソリンの値段は高かった。

1円に一喜一憂し、
情報を頼りに東奔西走した日々。

今となっては、想い出の一つに過ぎないが、
『ガソリン税』
という死語が唐突に頭に浮かぶと、
思わず、満面の苦笑いが顔いっぱいに広がってしまう。

そんなものなのだろう。

「ガソリンが高いから、職場から近いところに・・・」
一人暮らし実現への口説き文句。

それが決め手となったかは不明であるが、
まぁ、多少は影響したのかもしれないと考えると、
ガソリン高騰という社会現象が、
必ずしも悪かったわけでは・・・とも思う。

そんなことはない。



今や、切っても切れない関係にあるガソリン。
将来、本当に底が見えてしまった時、
自分の生活がどうなってしまっているのか。
考えるだけで末恐ろしい。

なんてことをドライヴ中に考える。
ガソリンさまさまな日々は、まだまだ続く。

キャッチフレーズ

環境にやさしいとうたう

ミネラルウォーターがあるとして、



ペットボトルの軽量化が

エコに繋がるから

環境にやさしいとうたう

ミネラルウォーターがあるとして、







これがもし、







万が一にも、







元々の案が、

予算削減のために考え出された

ボトル軽量化だったとしたら…



キャッチフレーズ一つで、

そのイメージは180゜変わる。

実に勉強になる。











うん、なかなか美味い水である。

夜勤中の来訪者

蒸し暑い日々。
動けばジワリと滲む汗。
窓を開けて少しでも清涼をと思うが、
網戸越しに映る
今か今かとスタンバイする小さな虫たちを見ると、
オレの頭は、躊躇の二文字によって簡単に支配されてしまう。



客人の来訪があったのはその時だった。
時計は9時を回っている。
施設の面会時間は過ぎているわけだが、
当人にとってはお構いなしといったところなのだろうか。

その衝撃は突然で、
オレは思わず、驚きの声を上げながら身を引いた。
さっきまでかいていた汗が、
一斉に引いていくのが分かる。

窓を閉めた際に触れたかたまり。
冷たさと柔らかさを兼ね備えたかたまり。

その時、左手背に『何か』が乗った。





本能のままに左手を振りはらう。
物体が宙を舞っていくのが見える。

『何か』が近くにあった紙箱に収まったのを確認すると、
オレは怖いもの見たさで中を覗き込む。
場合によっては、助っ人を呼ばねばならないが、
ここは一つ、自分の手でかたをつけるつもりだった。

そして・・・










目が合った。










紙箱の隅でこちらを見ている青白い顔。
あまり面と向かったことはないが、
知っている顔ではあった。

丸い目。
つるんとした顔。
潤いを感じさせる肌。
忍者のような手は見えなかったが、
おそらく、間違いはないであろう。



やもり。



向こうからすれば、
客人はオレといったところか。

「お邪魔してます」

軽く会釈をすると、
オレは彼を置き去りにしたまま、
夜勤の仕事を再開する。
気持ちは既に落ち着いてきている。

今頃、彼はどうしているだろう。
施設を守ってくれていることを切に願う。

届けられる想い

吐血をしても、
眼球が上天しても、
意識を失ったとしても、

しばらくすると、
声かけに反応してくれる。
暗く沈んだ世界から、
必死に届けられる想い。



人間の強さを感じ、
人間の脆さを感じ、

そして、

部屋で一人、人恋しくなる。

雪山

眼前にそびえる雪山。

その頂は高く、
肌は荒々しくもきめ細かい。
角度によって見せる多彩な表情。
オレは思わず固唾を飲んでしまう。

オレは知っていた。
この後、起きる出来事。
雪山に降りかかる出来事。

逸る気持ちをじっとこらえ、
静かにその時を待つ。
そして、



マグマは流れた。



まるで、生命を持っているかのように、
赤い液体が麓に向けて流れていくのが分かる。

少しも経たないうち、
雪山は先程までと表情を変えていた。
全面に押し出された赤は、
以前とはまた違った美しさを備えている。

何より、



実に美味そうだ。



オレはスプーンを手に取ると、
ゆっくりとすくった一杯を口に運ぶ。

キーンとくる痛みも
夏の風物詩と言えよう。