夜勤中の来訪者

蒸し暑い日々。
動けばジワリと滲む汗。
窓を開けて少しでも清涼をと思うが、
網戸越しに映る
今か今かとスタンバイする小さな虫たちを見ると、
オレの頭は、躊躇の二文字によって簡単に支配されてしまう。



客人の来訪があったのはその時だった。
時計は9時を回っている。
施設の面会時間は過ぎているわけだが、
当人にとってはお構いなしといったところなのだろうか。

その衝撃は突然で、
オレは思わず、驚きの声を上げながら身を引いた。
さっきまでかいていた汗が、
一斉に引いていくのが分かる。

窓を閉めた際に触れたかたまり。
冷たさと柔らかさを兼ね備えたかたまり。

その時、左手背に『何か』が乗った。





本能のままに左手を振りはらう。
物体が宙を舞っていくのが見える。

『何か』が近くにあった紙箱に収まったのを確認すると、
オレは怖いもの見たさで中を覗き込む。
場合によっては、助っ人を呼ばねばならないが、
ここは一つ、自分の手でかたをつけるつもりだった。

そして・・・










目が合った。










紙箱の隅でこちらを見ている青白い顔。
あまり面と向かったことはないが、
知っている顔ではあった。

丸い目。
つるんとした顔。
潤いを感じさせる肌。
忍者のような手は見えなかったが、
おそらく、間違いはないであろう。



やもり。



向こうからすれば、
客人はオレといったところか。

「お邪魔してます」

軽く会釈をすると、
オレは彼を置き去りにしたまま、
夜勤の仕事を再開する。
気持ちは既に落ち着いてきている。

今頃、彼はどうしているだろう。
施設を守ってくれていることを切に願う。