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これでもかと言わんばかりに、
両手を広げているようにみえた。
白、ピンク、
早いところでは、
黄緑色の新芽も覗かせている。
その下で、感嘆の声を漏らし見上げる姿は、
まるで、それが1セットであるかのように
周囲からは映し出されているのだろう。
それほどまでに見事な光景。
満開の春。
何かの拍子に、ふと目線を下ろす。
何十年と歴史を積み重ねたであろう太い幹。
そこに、風に吹かれる見慣れないものを確認した。
桜だ。
大きな桜の一番根元の部分。
枝分かれした、小さな小さな桜が咲いている。
空いっぱいに広がる壮大なイメージとは離れ、
その容姿は、何とも愛おしい。
今まで気づいていなかった美しい宝物に、
オレはにやりと表情を崩す。
桜の楽しみ方がまた一つ増えたことに、
大きな喜びを感じていた。
そのわずか数秒の間に、
どれだけの思いが込められていたのだろう。
その瞬間的な出来事に、
どれだけの出逢いが詰まっていたのだろう。
それは、本当に一瞬のことだった。
油断していたといえば、それまでなのかもしれない。
ただ、まさかここまで大事になろうとは、
オレの中ではまったく予期することが出来ていなかった。
あの時触れた右腕は、当然故意だったわけでもなく、
直後に倒れたと気付いた時には、
謝罪よりも驚きが先行していたことを今となっては思い出す。
ドンという鈍い音。
横倒しになっている状態を目の当たりにして、
ワンテンポ遅れて手を差し伸べた辺りが、その証明となるのかもしれない。
「まったく・・・」
そんな声さえ漏らしそうなオレは、
事の重大さに気付いていないとんでもない愚か者だったのだ。
何事もなく右手に力を入れる。
何事もなく力を・・・
辺りに散らばる透明の液体は、
持ち前の発泡性をいかんなく発揮している。
甘い匂いが、立ちすくむオレを優しく、かつ挑発的に包み込んでいく。
何をしているんだ畜生・・・
気の抜けたオレは、
気の抜けた炭酸水を飲みながら、
雑巾片手にフローリングの拭き掃除を始めていた。
くうぅぅぅ。
かわいらしい鳴き声がする。
目線を落としたその先で、その声は確かにオレを呼んでいた。
くうぅぅぅぅぅぅぅ。
先ほどよりも幾らか長めの声。
オレは声のするほうに目をやり、ゆっくりと上体を丸くしていく。
優しく包み込むその姿は、母性すら感じさせているかもしれない。
くぅぅ。
そっと手を差し伸べ・・・
くぅ。
ぎゅっと抱きしめた。
そして、オレはおもむろに思考を活動させる。
一体、何を食べたんだ?
個室にこもる男。
先程から訪れた腹痛の波は、確実にオレを飲み込もうとしている。
腹部からのSOSは、甲高い信号音となって辺りに発信されていた。
くきゅうぅぅぅ・・・くるるる・・・
半分涙目である。
本当に勘弁してほしい。
改めて見てみると…
という話はなしにしておきたい。