大きなかぶ

何か一つの困難を
共にやり遂げることが出来た時、

その達成感からか、
当事者たちの距離は、
少しばかり近付く気がする。

『大きなかぶ効果』





手慣れた手つきで
かけられた麻酔に、
親不知周辺の感覚は、
徐々に薄れていく。

それではとばかりに
姿勢を整える歯科医。

それではとばかりに
力の入る患者。
力の入る歯科医。

ただ、

麻酔をかけられていても、
不思議と一つだけ分かったことがあった。





・・・おそらく、
オレの屈強な歯は、
ピクリとも動いていない。





伝わる焦りと、
伝える謝罪。

オレは下手な腹話術とパントマイムで、
大丈夫だという意思表示を繰り返す。

もし、麻酔が効いてなかったら・・・
とは考えたくもない。



ゆっくりとリクライニングが上がり、
引きこもりからやっと抜け出した
歯と対面を果たす。

歯根３本の
やたら丈夫な住人が一人。

歯茎の下に埋もれていた部分が
こんなにも長いのかと、
何故か感心してしまう。

抜歯前にレントゲンで
歯根の具合を確認してはいたが、
どうやら歯科医にも
想像以上だったらしい。

頑丈であることに
超したことはないだろう。



と、達成感からだろうか、
辺りに自然と笑みがこぼれた。

何だかすみません。
いやいや、こちらこそ。

うんとこしょ。
どっこいしょ。
まだまだ、かぶは抜けません。

『大きなかぶ効果』



激痛の数日間を考えると、
感謝の気持ちが止まらない。
ありがとう。
先生、本当にありがとう。

血も止まらないが、
文字通りの出血大サービスと
ここは銘打っておきたい。



さて、何のサービスか。
それは知ったことではない。