通報

その数分前、
オレらはもう一度、現場前を通っていた。

聴取を受ける当事者たち。
パトカーからは警官が降りている。
先程、声をかけた警官が、
さらに加わろうとしているのが見える。

おそらく、これで一安心だろう。
安堵へ通じる道が、
この時、やっと開けたと実感する。

ただ、胸に残った何とも言えぬ興奮を
落ち着かせるには・・・

もう少し、時間がかかりそうだ。
それは仕方がないのかもしれない。





その数分前、
オレらは、次の交番に足を運んでいた。

一人の巡査が、
どこかに出掛ける準備をしている。
ちょうどこれから、現場に向かうところらしい。

地図で場所を確認し、
改めて簡単に事情を説明する。
これで何とか役目は果たせたろうか。
「ふぅ」と一つ息を吐くと、
オレらはもう一度、現場へ向かうことにした。

既に誰もいなかったら・・・
不安が頭をよぎる。





その数分前、
オレらは、二つ目の交番に辿りついていた。

ここもいない。

当事者と青年。
どちらの心配もしつつ、
もう少し先の交番を目指すことにする。

何とか間に合ってほしい。
願いは叶うだろうか。





その数分前、
オレらは再び、現場の脇を横切っていた。

相変わらず、いがみ合っている二人。
タクシーの運転手が、
車内に顔を入れ、クラクションを１発鳴らす。

第三者への合図なのか、
相手への威嚇のつもりなのか。
ただ一つ言えることは、
一触即発の状態は続いているということだった。

駆けつけた青年と別れを告げ、
オレらは近くの交番へと車を走らせることにした。





その数分前、
オレらは、一人の青年と出会っていた。

電話をかけている男は、
しきりに何かを相手に伝えている。
聞こえてくる話に、オレらは耳を傾ける。

どうやら、内容は同じのようだ。

果たして、駆けつけた交番に人影はなかった。
パトロールにでも出掛けているのだろう。
一足先に到着していた青年は、
そこで、１１０番通報をしたらしい。

懸命に事情を伝えている男の説明に、
オレらは、彼が見てきたであろう後の
最新の現場の状況について補足を重ねる。

口論が続いていること。
今にも手が出てしまいそうであること。
二人の特徴などについても触れることもあった。

電話を切った彼は、
警察が向かっていると教えてくれた。
ただ、どこにいる警察が駆けつけるか、
それは分からないという。

近くにある他の交番に向かう役を
引き受けたオレらは、
再度、現場に向かおうとする彼と、
一度別れを告げる。

慌てて車のエンジンをかける。
忙しくなる予感がしていた。





その数分前、
車は交差点に差し掛かっていた。

運転席から１台のタクシーと、
その横で向かい合う２人の男が見えた。
どうにも様子がおかしいため窓を開けると、
案の定、激しい罵声が深夜の街に響いていた。

運転手と乗客だろうか。
原因はよく分からないが、
お互い、全く引く様子がないことは容易に見てとれる。

一触即発な険悪なムード。
相手の言葉には聞く耳を持たない。
危険な気配だけが辺りを包んでいく。

この先にある交番へ報告しに行こう。

オレらは、信号が青になると、
目的地を変更し交番へと車を走らせた。










その数十分後、
オレらは、コンビニで乾杯をしていた。

達成感と満足感が体を支配していく。
どこかでまた、あの青年に会えたら・・・

今度は三人で乾杯でも。
そんなことを思っている。